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夏休みのある小学校時代に帰りたい [日記]

目玉焼きが焼けそうなベランダで、湿った洗濯物を一つ手に取る。じんわり熱いハンガーに掛け、肩のところをひとつ、ふたつと洗濯ばさみで止める。物干し竿にハンガーを掛ければ、日射しがほとんど射るように目に飛び込んでくる。
籠の中の山は、まだこの作業が20往復は続くことを意味していた。

子供が小学生に上がった辺りから、「夏休み」という言葉が憎くなった。
閉めたベランダの窓の向こうで、ぎゃんぎゃん口喧嘩をしている娘らの声が聞こえてくる。
こっちはたった3日しかないお盆休みだっていうのに。
あの娘たちは毎日暇で仕方ないのだ。

やっとのことでベランダという灼熱地獄から帰還して引き戸を開けると、金切声がMaxのボリュームになって耳をつんざいた。
下の娘が姉に呪いの言葉をぶつけながらびーびー泣いている。
さっき掃除機をかけたばかりの床はというと、鞄やら洋服やらクローゼットの中にあったはずのものが散乱し、ひっちゃかめっちゃかになっていた。声を上げて泣きたいのはこっちだ。

涼しい顔をして、上の娘が部屋に入ってきた。
不機嫌な私の視線とぶつかってぎくりとした顔をする。
「サホがいけないんだよ。こっちは急いでるのに、デジカメ早く渡さないから」
怒っているのは、そういうことじゃない。
「ここ散らかしたのもあんた?」
「お母さんのワンピース、貸してほしいって、昨日言ったでしょ? なかなかみつかんなくて…」

娘がいま着ているのは、私のワンピースだ。茶色の地に、淡い赤と緑のチェックが大きく全体にあしらわれている。小学生にはまだ大人っぽ過ぎる気もしたが、もう着丈は十分合っていた。
私と同じ顔をそのまま幼くした顔が、私のワンピースを着ている、と思うと、それは少し不思議な光景だった。
私が小学生に戻って、いまここにいるみたいだ。
いや、待て。騙されるなよ。
私はここだ。ここで、空の洗濯籠を抱えている。

下の娘も友達のところに出かけていって、家はようやく静かになった。
流しには三人分の冷やし狸をたいらげた残骸があるが、それはもうしばらく放っておくことにしよう。
冷蔵庫を開けて缶ビールを一つ取り出す。扉をぱん、と閉めると冷気が隙間から噴き出した。冷たい銀色の缶にみるみる水滴がついていく。
夏はいま、あの子たちのものだ。私のものじゃない。もう過ぎてしまったことだから、それがわかる。

リビングのノートパソコンを適当にカチカチとクリックする。
ピクチャに追加されたばかりの写真の、若い男の子が今日の娘のお相手なのだろう。
ふうん、まあまあじゃない。
ぷしゅっとプルタブを起こすと、白い泡の入道雲ができる。缶の中の黄色の液体を喉に流し込む。どく、どく、と喉が波打ち、気怠い身体をぱちぱちと熱が駆け抜けていく。
しかしだな、貴様らに昼間に空けるビールの旨さはまだわかるまい。



********
エスカレーターのところで、妙に大人びたワンピースを着た小学生二人と出会いました。
興味津々な様子で二人で下を覗きこんでいました。
「お母さんから借りたワンピースなのかな?」
と思ったことがきっかけでひねり出した夏のお話です。


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